「先生にぜひ読んでほしい」すごくわかる著作権と授業

著作権の基礎

section

01

著作権法とは

このsectionでは、著作権法の目的について説明します。著作権法は単に権利を保護するためだけに法律が書かれているのではないことを理解しましょう。

著作権法とは

著作権法

著作権については「著作権法」で定めています。著作権法の第1条に、法律の目的が書いてあります。

第1条(目的)

この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。
小中
著作権法って著作物をつくった人の権利を守る法律なんですよね。
隅木
それは正しいのですが、もう1つ大事な役割があります。それは著作物の公正な利用です。つまり、ある程度自由に使える範囲を決めて、みんなが著作物を利用しやすくするということです。
大院
ガチガチに権利を守りすぎると著作物が利用されにくくなるし、あまり自由にすると権利が守られなくなるし……
隅木
この権利の保護と公正な利用のバランスが難しいですね。
小中
文化の発展って具体的にはどういうことでしょう?
隅木
著作権法でいう文化の発展は、要するに多様な表現物が生まれることです。特許が扱う技術の分野は、極端に言ってしまえば1つの技術になってもよいわけです。例えば、値段が同じなら、誰もが一番持続時間の長い電池を使いたいですよね。でも、著作物はそうではない。Mr.Childrenの曲があるから、Perfumeの曲がなくてもよいとは思わないでしょ。
小中
なるほど。色々な表現が生まれることで豊かな社会になっていく、という考え方なんですね。日々多くの人が著作物を創っていて、登録の手続も必要ないから、たくさんの著作物が生まれやすくなる制度になっているんですね。
Point
著作権法の目的は著作者の権利の保護と著作物の公正な利用をもって文化の発展に寄与すること。

著作権法では、「著作物とはどういうものか」「著作権とはどういう権利か(作者の保護)」「どういう場合に著作権が制限されるのか(公正な利用とはなにか)」を決めています。

小中
でも、法律って難しくてよくわからないです……
具体的に書いてないところも多いし。
隅木
法律ではあえて抽象的に規定していて、解釈の余地があるから、人によっては違う意見が出ることもあります。判決が出ないとわからないこともあるんですよね。
大院
すぐには、はっきり白黒つけられないこともあるってことだ。
隅木
白黒つけられるところはつけておきたいですよね。先生方が参考にできるものはいろいろあります。この本の副題にある「改正著作権法第35条運用指針」もそのうちの1つです。

section

02

著作物とは

このsectionでは、著作権法で定義する「著作物」がどういうものであるかを説明します。

著作物の定義

小中
著作物って使っても減るわけじゃないですよね?
隅木
そうです。例えば、車は盗まれたらなくなってしまうので、すぐわかります。でも、文章は盗まれてもなくならないので、悪用されてもすぐにはわからないことがほとんどです。こういう無形の情報のうち、文化の発展に寄与する情報が著作物です。
大院
でも、キャンバスに描かれた絵は盗まれたらわかるんじゃないか?
隅木
絵は確かに著作物ですが、「物」としての側面と「情報」としての側面があります。著作物というと「物」だと思うかもしれませんが、著作物は「情報」なんです。つまり、著作物(情報)が有体物(絵)に乗っかっているわけです。その絵で、勝手にポストカードなどのグッズを作られて売られてしまったら困りますよね。
たとえ、正当に絵を買ったとしても、それは物としての権利、所有権をもらっただけです。もとの絵を描いた人の情報に対する権利は、そのまま描いた人に残っています。
大院
なるほど、所有してるのとは別ってことだな。

著作権法では「著作物」が保護されます。著作物とは、以下のように定義されています。

2条1項1号

思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
小中
わたしのクラスの生徒の身長・体重一覧の表は、表現したものなので著作物ですか?
隅木
いいえ、単なるデータは思想・感情ではないので、著作物にあたりません。
大院
料理のレシピには著作権がないって、よく聞くよ。
隅木
表現したものでないといけないので、アイデア自体は著作物にはあたりません。頭の中で考えてただけでは保護されないんです。
レシピというアイデアそのものは著作物ではありませんが、それが本とかWeb記事とかになっている場合に、その写真や文章が著作物になることがあるので、注意は必要です。
Point
思想や感情を創作的に表現したものでないと「著作物」ではない

著作権法上の著作物でないものの例

  • 頭の中で考えただけのもの(アイデア):小説のストーリーも考えただけでは保護されません。小説として表現されたものが保護されます。
  • データ、事実だけを記したもの:訃報、人事異動情報、各県の人口一覧などは、表現者の考えや気持ちを表現したものではないので、「思想又は感情」を表現したといえず、著作物になりません。
  • ありふれた表現やごく短い文章:「青い空」など誰でも使うようなフレーズは創作性がないと判断されることが多いです。

著作物の例としては以下のようなものがあります(10条1項)

【著作物の種類(10条1項)】
種類
言語の著作物 講演、論文、レポート、作文、小説、脚本、詩歌、俳句、落語、漫才など
音楽の著作物 曲、楽曲を伴う歌詞など
舞踊、無言劇の著作物 日本舞踊、バレエ、ダンス、舞踏、パントマイムなどの振り付け
美術の著作物 絵画、版画、彫刻、マンガ、書、舞台装置、生け花など(茶碗、壺、刀剣等の美術工芸品も含む)
建築の著作物 宮殿、凱旋門、庭園、塔などの建築物(鑑賞性が必要)
地図、図形の著作物 地図、学術的な図面、図表、設計図、立体模型、地球儀など
映画の著作物 劇場用映画、アニメ、ビデオ、YouTube動画、TikTok動画、ゲームソフトの映像部分などの「録画されている動く影像」
写真の著作物 肖像写真、風景写真、記録写真、広告写真など
プログラムの著作物 オペレーティング・システム(OS)、アプリケーション・ソフト、家電製品用のプログラムなど

このほかに次のような著作物もあります(11条、12条、12条の2)

【著作物の種類(11条、12条、12条の2)】
種類
二次的著作物 上表の著作物を翻訳、編曲、変形、翻案し、作成した著作物
編集著作物 百科事典、辞書、新聞、雑誌、詩集など
データベースの著作物 コンピュータで検索可能な形態をとった百科事典、辞書など

編集物は、素材の選択や配列に創作性があると、著作物となります。全体としても編集著作物として保護されますが、辞典や雑誌など中身の1つ1つの記事を利用する際には、個々の記事も著作物であるため、それぞれの著作権者の許諾が必要となります。

データベースの著作物は、集められた個々のデータに著作物性がなくても、データの選び方やデータを検索するための体系的な構成方法などに創作性があれば、著作物と認められます。

大院
データは著作物じゃないのに、データベースは著作物なのか。
隅木
例えば、他のデータベースでは調べられないような情報を検索できたり、同じ情報を検索するのでもキーワードの選定などに工夫があったりする場合に著作物性が認められることがあります。

以下のものは著作物にあたるものの、国民に周知し広く利用してもらう目的で作成されるので、許諾なく利用できます(13条)。

許諾なく利用できる著作物の例

  • 憲法その他の法令
  • 国や地方公共団体等の告示、訓令、通達など
  • 裁判所の判決、決定、命令など
  • 国、地方公共団体等が作成する上記の翻訳物や編集物
Q
では、ここでクイズです。下記のものは著作権法で保護される著作物でしょうか?
  • (1)ファンタジー小説の設定
  • (2)親戚の子にせがまれて、メモ用紙にさらっと描いた猫の絵
  • (3)アニメのキャラクターの名前
  • (4)学生のレポートに書かれたグラフ
(1)ファンタジー小説の設定
小中
小説は著作物だから、設定も著作物かな?
隅木
いいえ、抽象的な設定だけでは著作物にはあたりません。例えば、最近、主人公が異世界に飛ばされて、そこで活躍するような小説、漫画、アニメがありますが、異世界に飛ばされるという程度の設定自体はアイデアの範囲であって著作権はないので、このような設定で新たに小説を書いても著作権侵害にはならないのです。
(2)親戚の子にせがまれて、メモ用紙にさらっと描いた猫の絵
大院
メモ用紙に描いたようなものは、すぐ捨てるだろうし著作物じゃないんじゃないか?
隅木
いえ、いつ捨てるかは、著作権法上は問題ではなく、描いた時点で「表現されたもの」なので著作物となります
(3)アニメのキャラクターの名前
小中
これはきっと著作物ですよ!
隅木
はずれです。これは著作物にはあたりません。小中さんのお名前も著作物にはなりません。色々な考え方がありえますが、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」に当たらない、創作性がないといった整理になると思います。ただし、キャラクターの絵は著作物になります
(4)学生のレポートに書かれたグラフ
大院
グラフは著作物じゃないな。単なるデータは著作物じゃないし、データをグラフにしただけだったら、創作性はないんじゃないかな?
隅木
Excelなどで誰が描いても同じようなグラフになる場合は、創作性がなく、著作物にならない可能性が高いです。ですが、例えばビール消費量とかのグラフで、棒グラフをビールジョッキの絵にしているなど、表現上の工夫をしている場合は、創作性が認められて著作物になる可能性があります。

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03

著作者とは

このsectionでは、著作権法で定義する「著作者」について説明します。個人1人だけでなく、法人著作や共同著作者などもあることを理解しましょう。

著作者の定義

著作権法の2条1項2号に、著作者について定義されています。

2条1項2号

著作者 著作物を創作する者をいう。

著作物がなにかについては、前のsectionで学びました。それらを創作する者が「著作者」となります。

著作者となるのはプロのクリエイターだけではありません。幼稚園児や小学生が、絵を描けば、その絵の著作者となります。手紙を書けば、書いた人が手紙の著作者です。もし、イラストやプログラムなどの著作物の作成を外注した場合、実際にその著作物を作成した外注先が著作者になります。

Point
著作者は著作物を創作した者であって、プロかアマチュアか、子どもか大人かは関係しない!
小中
この前、親戚の幼稚園の子が描いた絵を写真に撮ってSNSにアップしちゃいましたけど……
隅木
幼稚園のお子さんでも著作者ですね。ただ、幼稚園のお子さんには判断できないと思いますから、保護者さんの許諾をとりましょう。
小中
うぅ……あれは、やらかしだったんですね……すみません……

著作者と著作権者

「著作者」は著作物を創作した者で、「著作権者」は著作権を持っている者を指します。基本的に「著作者=著作権者」になります。しかし、次のsection(section04 著作権とは)で説明しますが、財産権としての著作権は譲渡したり相続したりできるので、「著作者≠著作権者」になることもあります。著作物を利用する際に許諾を求める先は、以下のようになります。

  • 著作者人格権に関すること:著作者に許諾をとる
  • 著作権(財産権)に関すること:著作権者に許諾をとる

著作者人格権と著作権(財産権)については次のsectionで説明します。

職務著作(法人著作)

仕事でなにか著作物を作成した場合は、作成した個人が著作者になるのではなく会社や学校や大学などの組織が著作者になることがあります(15条)。職務著作(法人著作)となるためには、以下の条件が必要です。

  1. 法人等の発意に基づき作成されるものであること
  2. 法人等の「業務に従事する者」が創作すること
  3. 「職務上」の行為として創作されること
  4. 「公表」する場合に法人等の著作名義で公表するものであること
  5. 著作物の作成の時の「契約、就業規則」その他に職員を著作者とするという定めがないこと

(1)に関しては、必ずしも職場の具体的な指示がなくても最終的に職場の承認を得て作成する場合には「発意に基づき作成された」となります。また、職員がアイデアを出して作成し、職場の承諾がなくても、職務の内容から想定される限り職務上作成すれば、「発意に基づき作成された」ことになります

(2)に関しては、基本的には雇用関係のある人になります。会社の社員とか、大学の職員とかですね。派遣職員は会社と直接の雇用関係はないですが派遣先の会社等で具体的な指示を受けて働いている人なので、(2)に該当する可能性があります。

(3)に関しては、職務として作成していなければ該当しません。例えば、美術の先生が、休みの日に趣味で絵を描いたとしても、それは職場ではなくその先生が著作者となります。

(4)に関しては、大学教授の講義のように、著作名義を教授本人として公表されるものはこれにあたりません。

(5)に関しては、自分が作成した著作物の著作者を社員や職員本人とするとか著作権が社員や職員に帰属すると定めるような契約や規則があれば職務著作とはならず、作成者が著作者となります。

職務著作の場合は、法人等が「著作者」となり、「著作権者」となります(15条・17条1項)。

大院
おれが大学で使う授業のために、作ったスライドも職務著作になるのか?
隅木
個別の授業で作成する場合は、公表するときも大学の名前でなくて、先生のお名前で出されますよね。「(4)『公表』する場合に法人等の著作名義で公表するものであること」が該当しないので、著作者は大院先生になると思います。
大院
安心した。

複数名が著作者となる場合(共同著作者)

複数の人で1つの著作物を作成する場合があります。例えば、1つのキャンバスに複数人が1つの絵を描くようなときです。こういうものを「共同著作物」(2条1項12号)と言います。共同著作物の著作権は、共同著作者みんなの共有になります。

そのほかに、著作権の持分を譲渡したとき、もともとの著作権者が亡くなって、その子ども二人に著作権が相続されるときなどがあります。

共有著作権では、共有者は他の共有者の合意がないと権利を行使できません(65条2項)。

65条2項の「合意」は、他の共同者は「正当な理由」がある場合でないと、反対できないこととなっています。

他の共有者が合意を妨げる「正当な理由」があると認めた裁判例として、東京地判平成12年9月28日(平成11(ワ)7209)〔経済学書籍事件〕があります。この事件では、研究者が共同で執筆した経済学の書籍について、共同執筆者Aが重版と韓国語翻訳の出版について合意を求めましたが、もうひとりの共同執筆者Bがこれを拒みました。書籍が執筆から数年経過して内容が陳腐化していることや書籍への貢献がBのほうが相当上回っていること、Aに重版や翻訳を認めなければ経済的に脅かされたり、学者としての業績に不可欠であったりするとは言えないことなどから、裁判所は「正当な理由」があると判断しています。

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04

著作権とは

このsectionでは著作権法で定義する「著作権」には著作者人格権と著作財産権があること、また著作隣接権についても説明します。また、保護期間、ライセンス、権利制限などについても説明します。

著作権は「勝手に〇〇されない権利」

隅木
著作権とは、簡単に言うと自分の著作物を「勝手に〇〇されない権利」です。
小中
勝手にコピーされない、勝手にリメイクされない、とかですね。
隅木
日本は「無方式主義」というやり方をとっていて、著作物がつくられた瞬間に自動的に著作権が付与されるようになっています。簡単に言うと、著作権を得るために登録とかの手続をしなくてもよいということです。
小中
小学生の描いた絵もですか?
大院
学生の書いたレポートも?
隅木
そうです。
Point
著作物をつくったら、自動的に著作権は付与される(17条2項)

広義で言う著作権には、著作者のこだわりを保護する「著作者人格権」と財産的価値を保護する「著作財産権」の2種類があります。それぞれにどんな権利があるかを説明します。

著作者人格権

著作者人格権は、他人に譲渡することができず、相続もできません(59条、民法896条ただし書き)。そのため、著作権を譲渡しても著作者人格権は著作者に残ります。

著作者が死亡すると著作者人格権は消滅します。もっとも、著作権法には著作者死亡後も、著作物を公衆に提供したり、提示したりする者は、著作者人格権を侵害する行為をしてはいけない、と書かれています(60条)。

では、具体的に著作者人格権にはどのようなものがあるかを説明します。

公表権(18条)

公表権とはその名のとおり、未公表の著作物について著作者がどのように公表するか決められる権利です。なお、二次的著作物の著作者は、原著作物の著作者に断りなく二次的著作物を公表することはできません。

  • 公表するかしないか
  • いつ公表するか
  • どのような形態で公表するか(出版、放送、上映、展示、公衆送信など)
小中
もしかして生徒の絵を市のコンクールに出したりするのも、本人の同意が必要ですか?
隅木
もちろん必要です。先生に宿題として絵を提出しただけだったら「公表」したとは言えません。
それを複数の第三者に公表するのですから、著作者である生徒さんの同意が必要です。
また、絵のコンクールなどは、普通絵をどこかに展示するので展示権の問題もあります。
小中
そうなのですね、気をつけます。

氏名表示権(19条)

氏名表示権とはその名のとおり、著作物を公衆への提供もしくは提示をする際に著作者として表示する名前をどうするか決める権利のことです。

  • 名前を表示するかしないか
  • 表示する場合は、本名か変名(ペンネームや画号など)か

二次的著作物の場合は、原著作物の著作者と(19条1項後段)、二次的著作物の著作者の両方が氏名表示権を持っていることになります。氏名表示権にも一定の制限があり、次の場合には、氏名表示権の侵害にはなりません。

  • 著作物を利用する際に、利用者はすでにその著作物で表示されている名前を表示することができます。著作者の特段の意思で別の名前を表示する必要がある場合は、意思に沿う必要があります(19条2項)。
  • 表示するのが困難な場合で、著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれのない場合は、公正な慣行に反しない限り、氏名を表示しなくてもかまいません(19条3項)。

2つめは、例えばホテルのロビーなどでBGMを流している時に、いちいち「作曲者はだれそれです」などと放送しなくてよいという例などがあります。

同一性保持権(20条)

隅木
同一性保持権とは、自分の著作物の内容やタイトルを、自分の意に反して無断で「改変(変更・切除等)」されない権利です。
小中
写真をトリミングして使用したり、文章を変えたり……とか?
隅木
そうですね。文章は「・(中黒)」を「、(読点)」に変更、読点の削除や改行の省略、「現われ」を「現れ」に、「表われ」を「表れ」に、「決って」を「決まって」にするなどの送り仮名の変更も同一性保持権を侵害する可能性があるので注意が必要です
大院
えー、そんなんおかしかったら直すだろ。学生の論文とかも表記ゆれはよくあるぞ。
隅木
表記ゆれを直してあげるのも本人の同意があればよいのです。というより、むしろ本人に直していただいたほうが、今後表記ゆれに気をつけるようになるかもしれません。それなら侵害にもなりません。
大院
そりゃそうだな。

ただし、以下のような場合の改変は許されています(20条2項各号)。

  1. 教科用図書等への掲載(33条1項・4項)、教科用図書代替教材への掲載等(33条の2第1項)、教科用拡大図書等の作成のための複製(33条の3第1項)及び学校教育番組の放送等(34条1項)の適用により著作物の利用が認められる場合に、学校教育の目的上、やむを得ない改変
  2. 建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変
  3. プログラムのバージョンアップ等の改変
  4. その他、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変

(1)は、例えば難しい漢字をひらがなにして、低学年の生徒にも読みやすくするなどがあります。

(4)は、印刷機の性能の関係で、元のとおりに色合いが表現できないとか、音痴なので元のメロディのとおりに歌えないなどがあります。

具体的にどこまでが「やむを得ない」のかは難しい判断になります。自信が持てないときは著作者に確認をしたほうがよいでしょう。

Point
著作者人格権は、(1)公表権、(2)氏名表示権、(3)同一性保持権の3つ!

著作権(著作財産権)

財産権としての著作権には以下のようなものがあります

  • 複製権(21条)
  • 上演権及び演奏権(22条)
  • 上映権(22条の2)
  • 公衆送信権、送信可能化権、公の伝達権(23条)
  • 口述権(24条)
  • 展示権(25条)
  • 頒布権(26条)
  • 譲渡権(26条の2)
  • 貸与権(26条の3)
  • 翻訳権、翻案権(27条)
  • 二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(28条)
小中
なんだかたくさんのいろいろな権利があるんですね。
隅木
そうですね。ちょっと難しそうだと感じる人もいるかもしれません。著作権は「権利の束」と言われることもあります。まずは、大きく2つの権利があると理解しておくとよいです。
小中
たった2つでいいんですか!?
隅木
2つの権利が基本ですね。ひとつは、(1)著作物をコピーする権利。もうひとつは、(2)著作物を公に伝える権利です。
大院
ふーん。それだったら覚えられるかも。
隅木
(1)の「コピーする権利」は、コピーがたくさん生まれると、それだけ公に伝えられる機会が増えるので、(2)の「公に伝える権利」の大前提みたいなものです。
(2)の「公に伝える権利」については、技術の進歩によって公に伝える手段が多様になるのにともない、権利が増えていきました。
目の前の人々に伝えるのが、「上演」、「演奏」、「口述」、「展示」です。技術が進歩して著作物をなんらかのかたちに固定できるようになると、遠くに離れた人々にもそれらを伝えることができます。それが「譲渡」、「貸与」、「頒布」です。さらに、かたちあるものでなくても遠くに離れた人々にも伝えるのが「公衆送信」、「送信可能化」ということになります。
小中
翻案はどう理解すればよいのですか?
隅木
翻案は、すでにある著作物に新たに創作的な要素を加えることです。なので、(1)の「コピーする権利」の仲間と理解しておいてください。

「section04 著作権とは」で説明したとおり、複製権なら「勝手に複製されない権利」となります。財産権としての著作権は、譲渡したり、相続したりすることが可能です(61条1項)。

例えば、「ズッコケ三人組」シリーズの作者である那須正幹さんは、遺言で全作品の著作権を文学団体に譲渡(遺贈)したと報道されています

「翻案」は、著作権法独特の言い回しかと思いますが、脚色や映画化などにより二次的著作物を作成する行為のことです

「公衆送信権」「送信可能化権」も耳慣れない言葉かもしれません。公衆送信権は、公衆(不特定の者、特定多数の者)に著作物を送信する権利です。例えば、公衆送信のうち、自動公衆送信は、Webサイトに載せて多数の人に閲覧させたり、SNSに投稿して多数の人に見せたりすることなどを指します。送信可能化は、送信したか否かにかかわらず、著作物をサーバ等にアップロードして、自動公衆送信が可能な状態にすることを指します

小中
「公の伝達」は、公衆送信と何が違うんですか?
隅木
わかりやすい例で言うと、放送局がテレビ番組を放送するのが「公衆送信」、そのテレビ番組を食堂などに設置してあるテレビに映してお客さんが観ることができる状態にしているのが「公の伝達」になります。
小中
なるほど、すでに公衆送信されてるものをなにかの機械で受信して観せるってことなんですね。
隅木
ちなみに、放送される著作物について、通常の家庭用受信装置を使用した場合には、営利、有料であっても公の伝達権を侵害していることにはなりません
大院
おれは公の伝達はしてないな。
隅木
いえ、大院先生もしてる可能性はありますよ。例えば、授業でWebサイトを映して「ここをクリックしたらこれが表示されます」のような動作を見せている場合には、公の伝達になります。
大院
知らんかった!そんなものにも著作権があるんだ。
Point
著作権は、勝手に〇〇されない権利

著作隣接権

著作物等を「伝達する者」に付与される権利として著作隣接権があります(89条)。著作権と同様に実演、音の固定、放送、有線放送を行った時点で自動的に付与され、登録は不要です(89条5項、101条1項)。

Point
著作隣接権は、著作物の伝達に重要な役割を果たす者を保護する権利

著作隣接権者としては、以下のような人たちがいます。

それぞれどのような権利があるか、文化庁のテキストなどをご参照ください

  • 実演家:著作物等を演じる歌手、俳優、ダンサーなど
  • レコード製作者:音を最初に固定(録音)した者(レコード会社など)
  • 放送事業者:放送を業として行う者(テレビ放送局、ラジオ放送局など)
  • 有線放送事業者:有線放送を業として行う者(ケーブルテレビ、有線音楽放送局など)
小中
もしかして、小学生がアイドルの真似してダンスしても実演家?
隅木
そうですね。そのダンスの様子を録画したり、Webサイトで公開したりするような場合には許諾が必要です。
大院
レコード製作者の「音を固定」って、おれが犬の鳴き声をスマホで録音しても該当するの?
隅木
該当します。この固定する「音」は著作物でなくてもよいのです。
大院
おれもレコード製作者!

保護期間

著作権は永遠に存続するのではなく、保護される期間が決まっています。

著作権

  • 著作物の創作時から著作者の死後70年(51条)
  • 無名、変名、団体名義の著作物、映画の著作物は、著作物の公表時から70年(52条1項、53条1項、54条1項)

著作隣接権

  • 実演は、実演時から70年(101条1項1号、同条2項1号)
  • レコードは、音の固定(録音)時から発行後70年(101条2項2号)
  • 放送・有線放送は、放送時から50年(101条2項3号、4号)
Column

戦時加算制度

著作権の保護期間については、第二次世界大戦中は著作権が保護されていなかったとして、1941年12月7日(開戦前日)に連合国及び連合国民が日本で著作権を有していたもの、1941年12月8日(日本が参戦した日)から、当該連合国について平和条約が発効した日の前日(例えばアメリカ合衆国であれば1952年4月27日)までに著作権を取得したものに関して保護期間を加算するルールがあります。
大院
あー、これ知ってるぞ。50年だったのに、TPPで70年になったんだよな!
隅木
そうなんですよね……
小中
わたしのおじいちゃんでも亡くなったのは10年前くらいなので、おじいちゃんの著作物があったら、あと60年は保護されるんですね。わ、わたし生きているかしら……
隅木
そう、70年も経つとお孫さんも生きていない可能性があるので、誰が著作権者かわからなくなってしまう場合が増えるかもしれません。
小中
許諾をとりたくても、著作権者が見つからなかったらどうしたらいいんですか?
隅木
文化庁長官に裁定してもらって、補償金を払うかわりに、適法に利用できる制度があります。
小中
ちょ、長官に……
隅木
もちろん決まった手続があるので、長官に直談判しに行くわけではありませんよ。詳しくは4章で説明します。
Point
保護期間は、基本的に著作物の創作時から著作者の死後70年まで

パブリックドメイン

パブリックドメイン(public domain)は、公有という意味です。著作権者の許諾なく、誰でも自由に利用できます。以下のようなものが該当します。

  • 著作物の保護期間が満了しているもの
  • 著作権者が権利放棄したもの
  • 著作権者が死亡して、相続人が不存在のもの(62条1項1号)

パブリックドメイン作品を元に創られた二次的著作物は、その二次的著作物が創られた時点から著作権が発生します。その二次的著作物までパブリックドメインでないことに注意してください。

小中
著作権フリーってやつですね。
隅木
「著作権フリー」はちょっと危険な言葉なんですよ。「著作権フリー=著作権がない」と思い込んでる人が多いんですけど、違うんです。
小中
違うんですか?
隅木
著作権フリーと書いてあっても、権利を放棄していない場合があります。その場合はパブリックドメインにあたりません。
大院
ネットで公開してるようなものは、別に勝手に使っていいんだろ?
隅木
違います、違います(汗)。
まずライセンスの条件を確認しましょう。

ライセンス

ライセンスとは、著作者や著作権者が「こういうふうに使ってもいいよ」と利用者に許可を与えることです。利用者から求めて個別に与えられる場合と、権利者があらかじめ提示している場合があります。

他の人の著作物を利用する際には、利用規約、利用契約、利用許諾書などを確認し、ライセンスがあるか、あるならどんな内容かを必ず確認するようにしましょう。

利用条件を確認する

最近、いろいろなところでお目にかかるイラストに「いらすとや」さんがあります。

「いらすとや」さんのホームページにいくと「ご利用について」と書かれているページがあるので、確認してみましょう

当サイトで配布している素材は規約の範囲内であれば、個人、法人、商用、非商用問わず無料でご利用頂けます。

「そうか、無料で使っていいのか!」と安心してはいけません。この「規約の範囲内」をちゃんと確認する必要があります。「よくあるご質問」にも利用方法について丁寧に説明されているのでちゃんと読みましょう。

特に注意が必要なのは、商用利用で1つの制作物に21点以上のイラストを使う場合は有償となる旨が書かれていることです。

このようなイラスト素材や、写真素材を提供するサイトなどは、「利用について」「利用条件」「ライセンス」などの名前のところに、利用条件が書かれていることが多いので、よく確認してから使うようにしましょう。

みなさんがよく利用されているであろう「Googleマップ」もクレジット表記を必須としています。すでに表示されているクレジット表記を消して利用することは、契約違反や権利侵害となる可能性がありますので、注意しましょう。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(Creative Commons License)

ライセンスとして有名なものに「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」があります。名前が長いので、略して「CC」と呼ぶこともあります。CCは、作品を公開する作者が「この条件を守れば私の作品を自由に使って構いません」という意思表示をするためのツールとして、世界中で使用されています。

本ウェブサイトも「CC BY 4.0」で公開しています(フッターにこのマークがついています)。

【クリエイティブ・コモンズ(CC BY 4.0)の表記】
原作者のクレジット(氏名、作品タイトルなど)を表示することを主な条件とし、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可される最も自由度の高いCCライセンスのマーク

これは「表示」というもので、「原作者のクレジット(氏名、作品タイトルなど)を表示すれば」、改変も営利目的利用もOKとなります。

たまに「CCついてるから自由に利用してもいいんだよね」と勘違いされてる方がいらっしゃいますが、BYでもクレジット表記は必須なので、注意してください。

CCではBYを必ずつけることになっています。その他に下の【クリエイティブ・コモンズの表記例】のように、表示を組み合わせて、作者が希望する条件を提示することができます。

【クリエイティブ・コモンズの表記例】
表示 意味 概要
SA 継承 改変した場合、元の作品と同じCCライセンスをつけることが条件
ND 改変禁止 改変をしないことが条件
NC 非営利 非営利であることが条件

例えば、CC-BY-ND-NCの場合は、「クレジット表示、改変禁止、非営利」であれば、利用できることになります。全部で6通りの方法があります。

CC0もあり、これは権利の放棄を表明しているものです。CC0がついている著作物は自由に利用することができます

詳しくはクリエイティブ・コモンズのサイトをご参照ください

Point
ライセンスの確認は必ずしましょう!
小中
CCでなくても、利用条件のところに「クレジット表記」と書いてあるサイトもわりとありますね。
隅木
その場合は、ちゃんと作品名や著作者名を表記して、著作物を利用する必要があります。
大院
利用条件とかなんにも書いてなくても、ネットで公開してたら使ってもいいんだろ?
隅木
いいえ、なんにも書いてない場合は、基本的に利用の際には許諾が必要ということになります。ネットで公開してるからって、イコール自由に使っていいってことではないですよ。

権利制限

「section01 著作権法とは」で説明したように、著作権法は、著作者の権利の保護だけではなく、著作物の「公正な利用」も考えて、文化を発展させることを目的としています。

著作権法は、この「公正な利用」を促進するために著作権者の許可なく著作物を利用できる場面を規定していて、これらを「権利制限規定」と呼んでいます。著作権者の権利を制限して、公正な利用の範囲を定める条文になります。

権利制限規定はたくさんありますが、本ウェブサイトを読んでくださってるみなさんに関係ありそうな規定をいくつか以下にあげます。これらにあてはまる場合には、著作権者の許諾がなくても利用できます。

私的使用のための複製(30条)

  • 自分や家庭内その他これに準ずる限られた範囲内で使うためだけに自分で複製するのはOK
  • 映画館などでの映画の盗撮は、自分しか観ないとしてもNG(映画盗撮防止法4条1項)
  • 違法にアップロードされている著作物を著作権侵害物であると知りながらダウンロードするのもNG(30条1項3号)
小中
推し画像をホームページからダウンロードして、自分のスマホの待ち受けにするのは私的使用のための複製ですよね?
隅木
そのとおりです。でも、その画像をSNSにアップするのは公衆送信権侵害となってしまいます。30条で認められているのは複製だけですから。
大院
職員会議で新聞記事のコピーを配ったりするのは?
隅木
その会議は、業務目的なので私的とは言えないですよね。私的使用のための複製にはあたりません
小中
町内会だったらどうですか?
隅木
それも「家庭内」や「これに準ずる限られた範囲内」とは言いづらい集まりなので、あてはまらないですね
大院
そういや自炊代行業者問題とかあったな……
隅木
あの事例では、購入した紙の本を電子化したい人が業者に依頼してスキャンさせていたのですが、その複製物を使用したい人が自分で複製しなければ30条にはあてはまらない、ということでした
小中
私的複製と言ってもあまり広く複製していいわけじゃないのですね……

付随対象著作物の利用(30条の2)

  • 写真や動画を撮った時に付随して著作物が軽微な構成部分として写ってしまうのはOK
  • 付随して写ってしまった写真や動画を正当な範囲内で公衆送信OK
  • でも著作権者の権利を不当に害する場合はNG

図書館等における複製(31条)

  • 図書館は、営利を目的としない事業として、次の場合に図書館資料の著作物を複製できる
    • 利用者の求めに応じて、公表された著作物の一部分の複製物を1人につき1部提供する場合
    • 図書館資料保存のために必要な場合
    • 他の図書館等の求めに応じ、絶版等資料の複製物を提供する場合

教科用図書等への掲載(33条)

  • 学校教育の目的上、必要と認められる限度で教科書に掲載できる
  • 教科書に掲載する際に、翻訳、編曲、変形、翻案OK
  • 著作権者への通知と補償金が必要

試験問題としての複製等(36条)

  • すでに公表されている著作物を、試験、検定の目的上必要な限度で試験、検定の問題として複製、公衆送信(放送、有線放送は除く)できる
  • オンライン形式でする試験の場合もOK
  • ただし、著作権者の利益を不当に害することとなる場合はNG
  • 有料の検定、採用試験など営利を目的として利用する場合は、補償金の支払いが必要
  • 過去の試験問題をWebで公開したり、オープンキャンパスで配布したりする場合は、36条の適用はできないため著作権者の許諾が必要

営利を目的としない上演等(38条)

  • 営利を目的としない、観客から料金をとらない、出演者に報酬を支払わない場合に、公表された著作物を、公に上演・演奏・上映・口述OK
  • 営利を目的としない、貸与を受ける者から料金をとらない場合は、CDなど公表された著作物の複製物を貸与OK
Point
権利制限は、著作者の権利を制限することで、公正な利用を促進しようとするもの。

以下の2つは、特に授業でよく使う権利制限規定なので、2章で詳しく説明します。

  • 引用(32条1項)
  • 教育機関における複製等(35条)

罰則規定

いろいろと守っていただきたいことを説明してきましたが、それらを破って故意に著作権侵害をしたとして、刑事裁判で「それは罪です!」となった場合には、10年以下の懲役もしくは1千万円以下の罰金、またはその両方(119条1項)が刑事罰として定められています。

小中
やっぱり法律破ったら犯罪なんですね……
大院
でも著作権って親告罪なんだろ。
訴えられないと罪にならないんだろ?
隅木
著作権法が「親告罪」という制度をとっているのは、著作者や著作権者が別にいいと思ってる場合は起訴する必要がないからなんですよね。
しかし、起訴されないからやってもいいということではなく、法律違反であることには変わりありません。法律違反をしている限り、いつ告訴されるかわからないですよ。

平成30年の著作権法改正では、次の要件すべてを満たすものを「非親告罪」とし、告訴がなくとも起訴できることになりました(123条2項)。

  • 対価を得る目的又は権利者の利益を害する目的があること
  • 有償で公衆に提供され、又は提示されている著作物(有償著作物等)を原作のまま譲渡、公衆送信、その目的のために複製すること
  • 有償著作物等の提供・提示により得ることが見込まれる権利者の利益が不当に害されること

具体的には、漫画・映画・アニメなどの海賊版を販売したりWebで公開したりすると、権利者本人の告訴がなくても刑事事件になりえます。

一方で、コミケなどで販売されている同人誌などの二次的著作物については、親告罪のままになっています。